羽生 仕立て
布に、針。最上の仕事は、見えない場所にある。
THE TOWN / 羽生
羽生・埼玉
一世紀を超える、衣料のまち。
関東平野の田畑の先、静かな扉の奥に、工場がある。
読むほどの看板はない。
自らを名乗るものは、何もない。
羽生は、江戸の頃から藍染めの木綿を織り、
やがて作業着を、学生服を縫う町になった。
毎日着られ、擦り切れるまで着られる服を、百年以上つくりつづけてきた。
日本の学生服を縫ってきた町が、
アメリカの学生の上着を縫う。
この一着を縫う人々は、何十年も縫ってきた。
資格はそれだけであり、それで足りている。
THE JOINING / 異素材の接合
ウールと、革
互いに抗う、二つの素材。
ウールは譲る。革は譲らない。
ウールは曲線に馴染ませられるが、
革は裁たれた形を保ち、針の穴を生涯そのまま晒す。
やり直しは、きかない。
革に置き違えた一針は、解いても穴が残り、隠すことができない。
ウールの身頃に、革の袖。
バーシティジャケットの形を決めるのは、この一本の縫い目である。
そこには、ミリ単位の精度と、
同じ仕事を何十年と繰り返してきた手の確かさが要る。
WHAT IS NOT SEEN / 見えない仕事
見えない手仕事
一着の内側に、仕事は現れる。
内ポケットの口に、袖と同じ黒桟革。
衿の内側の吊りにも、同じ革。
西陣で織られた織ネームは、四方を裏地に縫い留める。
縫い代は一方へ倒し、ステッチで押さえる。
裏地には、体の動きに突っ張らぬよう、ゆとりを持たせる。
纏ってしまえば、そのどれも見えない。
写真に写しても、気づく人はほとんどいない。
それでも、その水準で作る。
他の選択を、考えたことがないからである。
十年先も着られる一着は、誰も見ていない場所で組み上げられる。
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